AKITEN

“Report” AKITEN ACADEMY ランドスケープ編

12月12日(土)13:00~18:00にAKITEN ACADEMYランドスケープ編を開催しました。

木藤健二郎氏、三島由樹氏、保清人氏の3名のランドスケープアーキテクトを講師に迎え、プレゼンテーション、まちあるき、グループワークの3つのセッションに分けておこなわれたワークショップには、ランドスケープ、都市計画、行政、デザイナー、高校生、バイヤーなど、多分野から多くの参加者が集まりました。

プレゼンテーションセッション

 ・道は残る。

ワークショップ冒頭では八王子の未来のストリートを考える前に、八王子の過去の道を古写真で紹介。戦後を乗り越えた八王子のストリートデザインと今、そして未来について語られました。

また、デザインするべき未来とは何年先なのか?など国連による世界の未来予想、日本の未来、地方都市八王子の未来のあるべき姿の問題提起を行いました。

 

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世界一幸せなストリートとは何か、海外のランドスケープ事務所勤務歴のある講師3名から、国内外のストリートデザインのプレゼンテーションが行われました。

 

 ・ノルウェーの道

ノルウェーのランボル・スタンバンゲル支社に勤める木藤氏より同地域のプロジェクトとアメリカ在住時に慣れ親しんだパークレットの紹介がありました。

スタバンゲルでは、再開発住宅地の共有空間、公園、自然エリア、並木道など、管理主体の異なる空間が組み合わさった緑のネットワークが計画され、トレイルとして街に張り巡らされています。行政、事業主、DNT(ノルウェートレッキング協会)と呼ばれる市民団体等が連携してトレイルが計画、維持管理される体制は、八王子でも応用可能ではないかという提言がありました。アーティストによる駐車場を公園にするパフォーマンスから着想して、サンフランシスコ行政が制度化したパークレットについても紹介されました。パークレットは公道の一部である路肩の駐車場に対して、沿道の商店主が提案、出資、建設、管理する半公共空間です。カフェテラスや駐輪場や自転車修理スペースなど、官民連携で道の賑わいやホスピタリティーを高める空間要素として実現されており、全米に広がりつつあります。また、木藤氏からは「欧米人に比べて日本人の方が、公共空間の使い方がうまいのでは?」と、雑多なモノや情報や商業活動と人が入り乱れる日本の繁華街ならではの公共空間のポテンシャルについても語られました。

 

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・道をやめる。

東京のランドスケープデザインの事務所、株式会社フォルクを主宰する三島氏からは、デザインは根源から考えることが重要であるという考え方に基づき、道とはそもそも何なのかといった話や、近代以前における世界各地の豊かな道のあり方が紹介されました。そして、これからの都市空間においては道という概念そのものをやめてしまうことが有効なのではないかという仮説のもと、今回のワークショップの対象である「ユーロード」を「道」ではない「場所」にすることをグループのテーマとしたいという刺激的な提案がなされました。

 

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・道に、ボクシングリングや卓球台があってもいいじゃない。

保氏より、「道は人を救う、道は人のために」、というテーマで、コペンハーゲンのマスタープラン、自身のプロジェクト、ニューヨーク、シドニーのストリートデザインの紹介がありました。ストリートデザインの自由さ、人を救う道、カタチ、イメージを参加者に向けて発信し、今回のデザインワークショップの自由度を知ってほしいとありました。

 

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・まちあるきセッション

3名のプレゼンテーション後、八王子駅前から西放射線通り、甲州街道前までのエリアを三分割し、三崎町公園周辺を木藤氏、中町公園付近を保氏、横山町公園付近を三島氏が担当し、6名程度のチームでまちあるきを行いました。西放射線通りから延びる細街路や商店会も自由に廻り、写真撮影やスケッチを行いました。

 

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・グループワークセッション

まちあるきを終えると会場に戻り、トレーシングペーパー、クレパス、色鉛筆、マーカーなどを使い、A1模造紙にデザインアイディアを描き込みました。発表時間がきても手を止めない参加者も多く、活気のあるワークショップができました。

 

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染みでる道

木藤チームは、西放射線通りよりも、両サイドに隣接するエリアの方が空きテナントや駐車場が目立ち問題を抱えている点に着目しました。一方でこのエリアは、細街路をさまよって小さなお店を発見する楽しみや、花街の面影などユニークさがあります。そこで西放射線通りと両サイドのエリア、そして八王子駅北口も含めて、賑わいや空間の個性が相互に染み出して、エリア全体を元気にする提案を目指しました。具体的には以下5つの提案から成ります。①駅北口の空間を整理し、駅から西放射線通りへと連続する並木とエントランスパークによって緑で人を招く。②西放射線通りは、両サイドの細街路のスケール感をお手本に、親密なサイズの野の花や低中木等で縁取られた休憩やイートインスペースを創出。これらを商店主の方々と協力して計画、管理。③車交通需要の少ない細街路を選んで、歩行者優先空間を西放射線通りから両サイドへ延伸。④再開発時に建物1階には屋内広場や屋内街路をつくることで、西放射線通りと細街路との回遊性を高める建築デザイン。⑤西放射線通り沿いの一連の公園は、エリア全体に色々な目的を持った人の流れを生むために、遊び、ガーデン、ストリートスポーツ等それぞれ明確に性格が違うものとする。木藤チームは、高校生を中心にプレゼンを行い、社会人や大学生が補佐に入り情熱とデザインコンセプトを表現することに成功していました。

 

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GEISHA GARDEN & STOCK JUNGLE

保チームは、花街が現存する中町界隈から、横山町公園に至るまでのデザインにまで及びました。甲州街道のマンション住民、高齢、子育て層が喜ぶデザインとして、三崎町界隈をショッピングジャングルにし、荒っぽい街並みにボクシングリングをつくる、中町付近をゲイシャガーデンに、横山町公園はディープフォレストに、道は歩行者、自転車道を緑道や水で柔らかい境界をつくるなど斬新なアイディアが飛び出しました。歩行者層が時間帯で変わることから、常設するベンチではなく、仮設的に設置でき、三角ポケットパークにフィットするチーズ型ベンチを提案。また空き店舗をまちの倉庫、ストックに設定し、道の一日の姿をデザインしました。マーケッターの参加者が根拠あるゾーニングをし、斬新さの中にも、根拠あるデザイン提案が仕上がりました。建築学科の学生もドローイングで大活躍でした。

 

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ユーロードのない、未来の八王子の風景 

三島チームは道を道として人々に認識させる要素を徹底的に取り去る引き算のデザインからスタートし、横山町公園から八王子駅まで延びるユーロードを、「道」ではなく新しい「場所」として再定義するデザインを行いました。ユーロード沿いに一定間隔で置かれた彫刻たちを一か所に集め、彫刻と人の集まる場所が一体となった、広々としたパブリックスペースを提案するなど、「道」を「場所」にするデザインの様々な方法が提案されました。既存のストリートデザインの考え方では実現が難しい大木やマウンド(丘)をつくるなどユーザーに豊かな経験をもたらすランドスケープデザインには、都市のど真ん中においてもワイルドな自然を感じられる未来の八王子の風景をイメージさせてくれます。具体的な未来として50年後を設定し、実現可能なアクションプランも語られました。グループ参加者にとっては既成概念に囚われない想像力が必要とされる難しいチャレンジだったかもしれませんが、大学教員、グラフィックデザイナー、行政職員、大学生、高校生という多彩なグループメンバーがテンション高く楽しく手を動かし、それぞれの持ち味を発揮したプレゼテーションを行い、高校生参加者がリードして描いたダイナミックな未来風景のスケッチによって、ユーロードから生まれた八王子の新しい場所を具現化することができました。

 

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講評

木藤氏から

ワークショップ講師のお誘いをいただいた当初、何故商店会やステークホルダーの方を交えたワークショップではなく、一般募集のワークショップなのだろう?と疑問に思いました。しかし若い世代を中心とした、八王子の街と西放射線通りに対する思いの強いメンバーが集まり、こうしたメンバーだからこその議論とアウトプットを目の当りにしました。三グループ三様のアウトプットでしたが、共通するのは、通りだけでなくエリア全体を元気にする、それも未来に向けて創造的・持続的に元気にする狙いであったと思います。こうした観点について短時間ながら密度の高い議論があり、数々のアイディアが出ました。参加した皆さんが、未来についてイマジネーションを膨らませることをとても楽しんでいる様子が伝わりました。若い世代ならではの自由な発想と、通りの未来に対する熱い思いを存分に出して下さったと思います。行政の方たちには、是非若い世代からのまちの未来に対する柔軟な視点を拾い上げられる計画体制を考えていただきたいと思います。商店主の方々、行政、そして新しい世代の西放射線通りのユーザー(サポーター?)が力合わせれば、八王子独自の個性や文化を持った素晴しい成果に繋がると確信しました。そうしたプロセスに何らかの貢献をしたいという気持ちは、私だけでなく、保さん、三島さん、そして今回参加した多くの方の中に芽生えた思いだと思います。

 

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保氏から

3つの提案どれも斬新でありながら実現可能なデザインではないかと驚きました。あえてタイムラインをつけるなら、保チームはここ10年で実現できる短期的な未来を想像できました。特に、まち歩きで多くでた参加者の質問には今どういう人がどのようにこの道を、何時頃から利用していて、どんな人が住んでいるのか?など、八王子の今を知り、未来へのデザインが行われたのは今すぐにでも八王子のみなさんと共有したい内容です。

木藤チームは20年後に可能な中期的な未来を想像できました。沿道の建築たちも世代がかわり、再開発がされることでしょう。建物の一部を”道化する”というのは、ノルウェーのプロジェクトに関わっている木藤氏らしいチームの提案であったと思います。また、西放射線通りは歩行者専用ですばらしい、という感想の元、これを他の道にも応用されるべきという主張は八王子の外からの視点がなせるものでした。

三島氏は、道路制度が変わり、人口体系やライフスタイルが変わる私たちの孫世代である50年後に実現できるし、実現したい内容でした。これは前述の保チームから、木藤チームに至るまで共通したアイディアであったし、高校生たちが主体であったことも見逃せません。

八王子が”世界一幸せな道”を有する日は近いのではないでしょうか。

 

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三島氏から

今回のワークショップの対象となったユーロードという道は、子供の時から歩いていた自分の中の原風景の一部とも言える道でした。また、整備されて長い時間が経ったユーロードを歩いていると、デザインの視点から具体的な課題も沢山見えてくるのですが、それと同時に、沢山の人が昔と同じように歩いていて賑わっている、決して悪いところばかりではないストリートであることも改めて感じました。ゆえに、ユーロードに対して何か提案するということは、自身にとってなかなか難しいことだったのですが、だからこそ、やるからには根っこの考え方から大胆に見直すことにチャレンジしてみました。

結果から言えば、思っていたよりも遥かに気持ち良く大胆なデザインができました。それは、ランドスケープのバックグラウンドを持たない多彩かつ多世代のグループメンバーが、僕の無茶振りに先入観なく気持ち良く楽しく応えてくれたからに他ならないと思います。木藤さんと保さんのグループの提案からもグループメンバーとグループワークの面白さがとても伝わってきました。

ランドスケープデザインというと、参加者の方にとっては普段聞きなれない言葉だったと思いますが、これだけ多彩な人たちとこれだけ自由に充実したワークショップが出来るというのは、やはりランドスケープデザインというデザイン分野が本質的には私たちの生活のとても身近なところにあるからではないでしょうか。また今回は、いわゆる「まちづくりワークショップ」ではなく、「ランドスケープデザインワークショップ」だからこそ生まれた新しいアイデアが沢山あったように思います。

続編、やりたいですね。そう思えるワークショップに参加できたこと、心から感謝しています。

 

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ご参加くださった皆様、ありがとうございました。

レポート/保 清人

撮影/鈴木竜馬